「すごいぞ腸内細菌」のブログ

管理栄養士と学術博士の資格を持ち、日々腸内細菌の研究をしています。腸内細菌に関することを書いています

産後うつと腸内細菌


産後は10人に1人が「産後うつ」と呼ばれる心の不調になりやすく、「妊娠中または産後1年以内の妊産婦の死因は自殺が最も多い」とも言われています。

産後うつになる原因には、ホルモンの急激な変化や睡眠不足、育児ストレスなどが挙げられますが、腸内細菌も影響すると言われています。

 

腸内細菌と脳は繋がっており、「脳腸相関」と言われます。腸内細菌の多様性や組成が精神疾患や認知機能に関係することが示されています。

 

京都大学の研究では、0~4歳児を養育中の母親 344 名を対象に、育児ストレスと身体症状、腸内細菌叢、食生活習慣との関連を検討しました。うつ症状が高い者ほど腸内細菌叢の多様性が低く、とくに短鎖脂肪酸の中でも酪酸の産生に関わる菌(Lachnospira 属、Faecalibacterium 属、Subdoligranulum 属など)の相対量が少ないことがわかりました。また、参加者の食事パターンを調べた結果、野菜や肉、魚を摂取するだけでなく、大豆食品や発酵食品、海藻やきのこなどを積極的に摂取することで、産後女性のうつ気分や身体症状が緩和、腸内細菌叢の健康な状態が維持される可能性が示されました。(以下論文リンク)

academic.oup.com

 

また同グルーブは、3~4歳の日本人幼児284 人を対象に、子供の気質と腸内細菌叢の関連も検討しています。その結果、不快情動の表出や新奇な環境を積極的に探索接近する特性は、腸内細菌叢の構成の違いや多様性と関連することが明らかとなりました。腸内細菌叢の構成の違いに寄与する腸内細菌を調べたところ、炎症の誘発に関連する菌(Flavonifractor、Eggerthellaなど)や抗炎症作用に関連する菌(Faecalibacteriumなど)が、幼児期の気質と関連をもつことが示されました。(以下論文リンク)

onlinelibrary.wiley.com

 

産後の食生活や腸内細菌バランスが母親や子供のメンタルに影響することを示した研究です。育児に追われる毎日で腸内細菌まで頭は回らない環境になりやすいですが、地域や行政も巻き込んだ対策が行われるといいかもしれないですね。

 

遠い家族と共同生活者:腸内細菌はどっちが近い?


あかちゃんは、生まれる際に母親の腸内細菌を受け継いで生まれてきます。

そのため、子供と母親の腸内細菌が似ていることが多いです。

 

しかし、今回紹介する論文では社会的つながりが腸内細菌に影響を及ぼすのか検討しています。(以下論文リンク)

www.nature.com

 

この論文では、ホンジュラス共和国の18の村に住む大人1787名の腸内細菌を調べています。

種レベルおよび株レベルのデータを用いた解析の結果、家族や同居人以外のつながりを含む多様な関係性の間で、微生物の共有が生じていることが明らかになりました。

また、社会的に中心的な位置にいる人は、村全体の腸内細菌構成とより高い類似性を示すことも確認されました。

 

驚くべきことに混合効果ロジスティック回帰モデルによる分析を行うと、株の共有率による情報だけで、2人の関係が家族なのか社会的な繋がりなのかをある程度予測することができるというのです。

 

こちらの2026年の論文では、家族ではない同居者同士は口腔細菌や腸内細菌を共有している割合が多いと報告しています。(以下論文リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

こちらでは口腔細菌がまず共有してから腸内細菌が共有するとの方向性があるため、口から消化管を通して菌が共有していくそうです。

 

一緒に暮らしていると、食べ物の嗜好や性格が似てくるなど言いますが、腸内細菌の類似化が関わっているのかもしれません。

 

エガセラ属(Eggerthella)について

この菌は、女性ホルモンであるエストロゲンに似た作用をするエクオールという物質を産生する菌のひとつです。そのため、男性に比べて女性の方が多いことが明らかになっています。(以下論文リンク)

www.jstage.jst.go.jp

 

しかし、エガセラ属のうちのエガセラ・レンタ(Eggerthella lenta)はイミダゾールプロピオン酸を生成する酵素を持ってます。イミダゾールプロピオン酸はパーキンソン病患者に多く、脳と腸をつなぐ病気の原因であると言われています。さらには、パーキンソン病の治療薬の一つであるレボドバを腸内で代謝して効果を軽減させてしまう菌の一つにこのエガセラ・レンタがあげられています。すなわち、エガセラ・レンタは、パーキンソン病の発症・悪化に関与する可能性があるのです。(以下論文リンク)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

さらには、エガセラ・レンタは糖尿病患者、リウマチ患者やサルコペニアの方でも増えていることが報告されており、多くの疾患に関与している細菌であることが示唆されています。(以下論文リンク)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

エガセラ属は女性の更年期障害に貢献する可能性がある一方、エガセラ・レンタには気をつけた方がいいかもしれません。

 

腸内細菌が血液型を変える


皆さんの血液型は何ですか。

普段は占いなどでしかあまり気にしない血液型ですが、輸血が必要になった場合には、基本的には自分と違う血液型を投与できないため自分の血液型を知っておくことは大切です。しかしなぜ自分と違う血液型を投与できないのでしょうか。

 

血液型は、赤血球の表面にあるその糖鎖の形によって決まります。例えば、A型では赤血球の表面にA抗原が、B型ではB抗原が結合しています。一方、抗原とくっつく抗体も血液により違いA型ではB型抗原に対する抗体を、B型の人はA型抗原に対する抗体を持っています。そのため、A型の人にB型の血液を投与するとA抗原にA型抗体がくっつき赤血球が破壊されてしまうのです。

同じようにAB型の赤血球にはA型B型両方の抗原が結合しています。O型ではA抗原もB抗原もなくH抗原という別の抗原を持っています。

 

O型の血液はA抗原もB抗原もないため他の血液型の人に輸血することができます。そのため、O型の血液は医療現場では非常にありがたい存在です。

 

今回デンマークでの研究により、腸内細菌であるAkkermansia muciniphilaから産生・使用する複数の酵素が、A型とB型の赤血球細胞を効率よくO型に変換することを判明しました。実際のA抗原やB抗原は単純なA抗原やB抗原だけでなく、糖付加によって複雑になっており、今までの処理だけでは完全に処理できず、輸血後の血液型不適合反応を引き起こす原因と考えられていました。しかし、今回の研究の酵素は、最近発見された拡大版のA型やB型に対しても有効であると報告しています。(以下論文リンク)

www.nature.com

 

これが実装されれば医療現場でも血液を多くの人に届けることができ、献血も血液型に関わらずお願いすることができますね。

 

花粉症と腸内細菌

花粉が多く飛ぶ時期になってきました。今年は例年に比べて多くの花粉が飛んでいるそうです。

この時期になると毎日薬を飲んだり、花粉を体内に取り入れないように外に出ないなどさまざまな対策を取っている人も多いかと思います。花粉症は2人に1人は罹患しており、国民病と言われるほど多くの人が悩まされているのです。

 

花粉症は免疫が暴走して、本来攻撃する必要のない花粉にも過剰に反応してしまうものです。花粉が体内に入ると異物として判断し攻撃するIgEという抗体が多く産生されます。このIgEが肥満細胞とくっつくことでくしゃみや鼻水を引き起こすヒスタミン、鼻づまりを引き起こすロイコトリエンなどが放出されて症状が出てしまいます。

 

花粉症は花粉に対してのアレルギー症状ですが、このアレルギーが生じるメカニズムの一つとして腸内細菌が言われています。

免疫細胞のうち70%が腸にあることから腸と免疫には強い関わりがあります。

アレルギーの人の腸内細菌ではビフィズス菌や乳酸菌が少ないと言われており、特に花粉症の人では「Bacteroides属が多い」とも言われています。(↓論文リンク)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

特に一部の乳酸菌はIgEの産生を抑制する力があるため、プロバイオティクスやプレバイオティクスを摂取することで腸内の乳酸菌を増やす試験も多く行われています。(↓論文3本リンク)

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

www.sciencedirect.com

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

 

また、腸内細菌が食物繊維を分解して産生する短鎖脂肪酸は過剰な免疫を抑制してくれる制御性T細胞(Treg)の誘導を起こすことでアレルギー症状を軽減すると言われています。

 

腸内環境が良くなってすぐに花粉症に効果があるとは限りませんが、一度花粉症になると毎年花粉と戦わねばなりません。腸内環境を整えて徐々に花粉症が軽減していくといいですね。

 

季節と腸内細菌


寒い冬もあと少し、もうすぐで春がやってきそうです。

一方で今年度はインフルエンザが2回も流行し、現在B型が猛威を奮っています。

 

冬は寒さと乾燥で風邪をひきやすい季節であるイメージがありますが、腸内細菌はどうなのでしょうか。

 

腸内フローラ検査サービスを行っているサイキンソーから興味深い発表がありました。

2024年から2025年に腸内フローラ検査を受けた健康な16~64歳の男女6069人の腸内フローラを四季に分けて解析したところ、冬から春にかけて腸内環境のバランスが乱れやすく「要注意菌」が増加する傾向があることがわかりました。具体的には便秘に関連のある菌とされる「ビロフィラ」肥満に関連のある菌とされる「フソバクテリウム」「メガスファエラ」「ステレラ」が増加する傾向が見られたそうです。

このように腸内環境が乱れた状態では免疫機能も乱れやすくなるため、風邪をひきやすくなったり、花粉症などのアレルギー症状が強く出たりする可能性があります。(以下発表データリンク)

 

prtimes.jp

 

腸内環境が乱れやすい冬や春にこそ、腸活が効いてくるかもしれません。

 

プラスチックを分解する虫たち 腸内細菌との関係

近年、SDGsという言葉が身近になってきていますが、プラスチックのゴミ問題もSDGsに深くかかわっています。プラスチックごみは、自然に分解しづらく海洋汚染の原因の一つと言われています。毎年多くのプラスチックごみが海に流れており、このままのスピードで汚れていくと2050年には海にいる魚の重量よりもごみの方が多くなると予測されています。

 

そこで今回は、プラスチックを分解する虫の話題です。

プラスチックごみが多く存在する土壌に棲んでいる虫を調べるとプラスチックを分解することができるものが存在しているそうです。虫たちも日々進化をしてプラスチックを餌として取り込めるようにしているようです。

たとえば、昆虫食でも話題のミールワームには、発泡スチロールなどのポリスチレンを分解できるものがいることをスタンフォード大学の研究チームが発見しました。

また、スペインでは、ワックスワーム(蛾の幼虫)においてポリエチレンを分解しているものを見つけています。

これらは唾液や腸内細菌が産生する酵素がプラスチックを分解します。最終的には二酸化炭素や無害な有機化合物にまで分解されて排出されます。

腸内細菌では特にExiguobacterium属がこの酵素を産生しているそうです。

 

いまだ社会に実装できるまではあと一歩の段階ですが、自然をきれいにしてくれる虫たちに感謝ですね。