sugoizochounaisaikinのブログ

管理栄養士と学術博士の資格を持ち、日々腸内細菌の研究をしています。腸内細菌に関することを書いています

熱中症と腸内細菌


2023年の夏はとても暑かったですね。

2024年は観測史上最も暑くなるとも言われています。

 www.bloomberg.co.jp

 

猛暑になると、熱中症にかかる人も多くなります。

 

熱中症にかかりやすい人は、

・運動になれていないのにスポーツをする人

汗のかきにくい高齢者や乳幼児

・肥満の人

などが挙げられます。

 

また、熱中症にかかる原因は、汗を大量にかいても熱の放散が追い付かず、体内の熱がこもってしまい、体温が上がることだと言われています。

体温が上がると体温を下げようと血管を広げますが、汗をかいているので水分を補給していないと血液量が減ります。

そのため、臓器や組織へ血液が充分にいきわたらず、機能が低下してしまうのです。

脱水と体温上昇に伴う臓器血流低下により、めまい・失神・頭痛・吐き気といった症状を呈し、重症化すると多臓器不全も引き起こします。

ひどい場合には死にも直結する熱中症にはならないように気をつけたいところです。

 

最近では腸内細菌が熱中症の重症化に関与している可能性が出てきています。

腸内細菌の悪玉LPSが多い状態で、体温があがると腸内のLPSが血液に入ります。

LPSが体内に入るとサイトカインが作られ、あらゆる臓器へダメージを与えひどいときには機能不全となってしまいます。

 

LPSについては以前の記事で説明していますのでこちらをご覧ください。

sugoizochounaisaikin.hatenablog.com

 

2003年九大の片淵らの論文では、高齢ラットと若年ラットを同じ温度まで上昇させ熱中症を発症させたにも関わらず、高齢ラットでのみLPSが体内に移行していることがわかりました。

つまり、消化管バリアは若年と高齢では異なり加齢によりバリア機能が低下していることを示しています。

体内に入ったLPSは脳内のサイトカイン発現量を増やしたことから、加齢のマウスの方が熱中症によって重症化しやすい可能性が考えられます。

論文)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14559351/

 

熱中症の重症化予防には、水分・塩分補給とともに腸内細菌のバランスを整えることが望ましいと言えます。

 

関節リウマチと腸内細菌


関節リウマチは、「自己の免疫により、手足などの関節が破壊され、関節痛や関節の変形が生じる病気」です。

日本では人口の0.5〜1%がかかる比較的頻度の高い病気で、女性の方が多く罹っています。

病因は未だわかっていませんが、ウイルス感染、喫煙、食事習慣、その他未知の環境的要因が複雑に関与していると推測されます。

 

わたしたちの身体の中に異物が入ると、免疫が働いて攻撃し排除します。

しかし、腸の中には大量の菌がいて、まさに異物だらけの状態であるにも関わらず、健康な人は正常を保っています。

これは、腸内細菌に対しての免疫を抑制しているからです。

過剰な免疫を是正しているのはTreg細胞という細胞で大腸において多く発現しています。

Treg細胞の発現には腸内細菌の存在が重要で、お腹の中に菌がいない無菌マウスではTreg細胞の割合が少ないことも分かっています。

(論文)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3969237/pdf/nihms564847.pdf

そのため、関節リウマチも、腸内細菌バランスが崩れ、抑制されていた免疫が過剰に働いてしまうことで、関節などの組織に影響が出てきている可能性が考えられます。

 

実際に、関節リウマチ患者の腸内細菌は、多様性が低いことが報告されています。特にPrevotella copriが多く、Bacteroidesが少ないとも言われています。

(論文)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3816614/pdf/elife01202.pdf

Bacteroides fragilisが産生するPSAという多糖体は、Treg細胞の割合を増やすと言われていることから、過剰免疫が働いている自己免疫疾患の人はBacteroides fragilisを始めとするバクテロイデス菌を増やすことが重要かもしれません。

 

Prevotella 属は口腔内の歯周病と関連があるといわれます。歯茎から悪玉菌が体内に入り、炎症を引き起こすともいわれているので、歯磨きはしっかり丁寧に行い、虫歯は放置しておかず早めに治療しましょう。

関節リウマチと歯周病に関係があるだなんておどろきだね!

 

便移植ってどういうこと?

その名の通り、うんちを別の人の腸内に移植することです。

腸内細菌叢移植(Fecal Microbiota Transplantation: FMT)とも言われています。

これは、この病気の人の腸内細菌は多様性が低下しており、健康な人の腸内細菌とは異なることから始まっています。

他人のうんちを移植すると聞くとびっくりしちゃいますよね。

しかし、ただうんちを投与して健康な腸内細菌が来ても、宿主の腸内細菌が棲んでいるのでなかなか定着してくれません。

そこで、まず抗生物質を投与して、宿主の腸内細菌を減らしてから、健康なうんちをいれることで定着しやすい状態にします。

うんちを提供してくれる人も大切だそうで、患者の近親者、特に年齢差も10歳未満がよいらしく、親よりも兄弟の方が腸内細菌の定着が良いらしいです。

 

現在、一定の効果が示されているのは、再発性Clostridium difficile関連腸炎クローン病潰瘍性大腸炎などの消化管系の疾患のみですが、腸内細菌があらゆる病気と関係があることがわかってきているので、今後多くの病気についても検討されそうです。

 

アメリカではすでに「便バンク」という名の健康なうんちを提供するビジネスが行われています。

将来的には健康なうんちは高く売れるかもしれません!!

 

ただ、うんちといえども移植ですから、自分ではない異物が体内に入ることになります。特に腸内細菌を移植したいのでうんちを滅菌処理もできないため、感染症など気をつけなくていけない課題などもあります。

 

今はまだ臨床研究段階とのことで、今後の研究に期待しましょう。

短鎖脂肪酸について

最近、短鎖脂肪酸がブームになっているのでその話題です。

短鎖脂肪酸は炭素が6個以下の脂肪酸のことです。

具体的には、ギ酸(C1)、酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、酪酸(C4)、吉草酸(C5)、カプロン酸(C6)などが挙げられますが、ここでは腸内でよく産生される酢酸プロピオン酸酪酸についてお話します。

 

酢酸は、お酢の主成分なのでなじみがあると思います。ツンとした刺激臭があり、酸味があります。

プロピオン酸は、不快な臭いがあります。生ごみの腐敗臭というとイメージつくかもしれません。

酪酸は、直鎖のカルボン酸ですが、非常に不快な臭いがあります。銀杏の臭いというとわかりやすいでしょうか。ヒトはこの臭いに非常に敏感で数十ppmでも感知することができます。

 

これら短鎖脂肪酸は、お腹の中で腸内細菌(それぞれ酢酸菌プロピオン酸菌酪酸)が食物繊維やオリゴ糖を分解して作っています。

短鎖脂肪酸のうち、酢酸プロピオン酸は宿主の体内に吸収されて肝臓や筋肉で代謝されエネルギーとして使われますが、酪酸は主に大腸の細胞内で代謝されます。

短鎖脂肪酸の受容体であるGPR41 とGPR43は、それぞれ腸管の糖代謝制御や脂肪細胞の肥大化を防ぐことから、糖尿病や肥満に効果があると期待されています

https://www.toukastress.jp/webj/article/2019/GS19-17j.pdf

 

酪酸には宿主の免疫系に作用し、制御性T細胞という炎症やアレルギーなどを抑える免疫細胞を増やす働きがあることも報告されています。

www.riken.jp

また、長寿で有名な京都の京丹後市に住む人の腸内細菌には酪酸が多いことも話題になりました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

宿主に大きな恩恵を与える短鎖脂肪酸

短鎖脂肪酸が作られる原料である食物繊維やオリゴ糖を積極的に摂っていきたいですね。

 

ビフィズス菌と乳酸菌 私はどちらを食べればいいのか。

ヨーグルトを始めとする善玉菌と言えば、ビフィズス菌と乳酸菌が思い浮かぶのではないでしょうか。

スーパーのヨーグルトコーナーを見ると本当にたくさんの種類があり、お腹の調子を整えるだけでなく、体脂肪や睡眠の質、尿酸値などさまざまな効果を謳った機能性表示食品が並んでいます。

どれを食べようか本当に悩みますよね。

そこで今回は、「ビフィズス菌と乳酸菌、私はどちらを食べるといいのだろう。」について考えてみたいと思います。

 

ビフィズス菌と乳酸菌どちらも私たちのお腹の中にいる腸内細菌ですが、ビフィズス菌は酸素があるところでは生きられないのに対して、乳酸菌は酸素があってもなくても生きられます。

そのため、私たちのお腹の中での繁殖場所が異なっており、乳酸菌は比較的酸素がある(口に近い)小腸のあたり、ビフィズス菌は酸素がない大腸あたりに多くいます。

小腸は栄養を取りこみ病原菌などを取り込まずに排除する場所、大腸は水分を取り入れ便を作る場所なので、菌によって得られる効果も異なってきます。

 

腸内にいる菌の数も異なっており、乳酸菌はおよそ百万個、ビフィズス菌はおよそ百億個お腹にいると言われています。

ビフィズス菌の方が乳酸菌よりもずっと多くいることがわかりますね。

特に、日本人は世界の国の人々に比べて、ビフィズス菌が多い人種なので、ビフィズス菌の効果を受けやすいかもしれません。

 

以上より、

・腸内細菌の改善を期待したい ⇒ ビフィズス菌

・腸内だけでなく免疫を始めとした宿主の身体にも効果を期待したい ⇒ 乳酸菌

を食べてみるなんていかがでしょうか。



ミルク抗体って何?


ミルク抗体とはミルク(牛乳)に含まれる抗体のことです。

牛乳とくに出産直後の初乳には抗体が豊富に含まれていますが、これは母親ウシが子に免疫を与えるためです。

ウシの子はほぼ免疫がない状態で生まれてきますが、この初乳を飲むことで自身の免疫を獲得していくのです。

そのため、ミルク抗体にはいろんな種類の抗体が含まれており、その中にはヒトにとって病原菌である菌に対する抗体も含まれていて、それらの増殖を抑えることができます。

 

低下した免疫を補助

私たちの身体の免疫細胞の7割は腸に集まっています。

また、腸管の粘膜にはIgAという抗体が豊富に存在しています。

これは、食物を食べて体内に取り込む臓器であるため、外から病原菌が体内に侵入してくるリスクがあるからです。

免疫が正常に動いている場合は、多少の病原菌が腸に入ってきても免疫細胞やIgAにより無毒化してくれます。

しかし、これらの免疫細胞やIgAは加齢やストレスなどの要因により減ってしまいます。

ミルク抗体を摂取すると、腸内で代わりに病原菌を無毒化排泄してくれます。

ミルク抗体を摂取するには?

日本では、出産後5日までのウシ初乳を商品にはしてはいけないと決められており(乳及び乳製品の成分規格等に関す省令別表2)なかなか日常的に飲むことはできません。

もちろん普通の牛乳にも抗体は含まれていますが、初乳に比べるととても微量です。

さらに普段スーパーで並んでいる牛乳は高温での殺菌がおこなわれているため、熱に弱い抗体は壊れて働きを失っています。

そこで牛乳から作られる乳製品の中に抗体成分を濃縮されているものはないかと調べたところ、チーズやヨーグルトを作る際にできる上澄み(ホエイ)の中に抗体成分があることがわかりました。

このホエイの水分をなくすと抗体成分が濃縮されます。

それが乳清タンパク(ホエイプロテイン)です。

このホエイプロテインを製造する際には、熱をかけすぎると抗体が壊れてしまうので、低温殺菌で行う必要があります。

なのでホエイプロテインすべてがこの抗体が豊富に含まれているというわけではないので注意です。

 

熱はないのに体調不良になることが、年令と共に多くなると思いませんか

 

別のコラムで、風邪のだるさはサイトカインのインターフェロンの副作用と書きました。

 

sugoizochounaisaikin.hatenablog.com

 

その一方で、年をとってくると、熱はないのになんとなくだるさや痛みを感じる日が多くなってきませんか。

そういえば、この前もおばあちゃんが「朝晩は節々が痛むのよ」って言ってたわ!

 


図1は、20歳から102歳の健康な健康男女1327人の血液についてサイトカインを調べたものです。

サイトカインであるIL-6とIL-18が年とともに高まる様子が分かります。

IL-6は、抗体の量を増やすサイトカインで、関節の腫れや痛みを起こす作用があります。

また、筋肉を減らす作用もあり、高齢者のサルコペニアにも関係があります。

IL-18はウイルス感染の対する免疫を強める機能がありますが、同時にインターフェロンと同様に疲労感を引き起こします。

熱はない体調不良(だるさ、節々の痛みなど)も、サイトカインが原因のようです。

内細菌は加齢と共に変わる


図2は、腸内細菌の生涯にわたる変化を示しています。

成年期後半から、ビフィズス菌が減り、大腸菌ウェルシュ菌が増えます。

大腸菌ウェルシュ菌の増加は腸内細菌バランスが崩れている特徴的な変化の一つです。

腸内細菌が作る毒素の中にエンドトキシン、別称LPSがあります。

その中でも大腸菌が作るLPSは、消化管バリアの劣化に従い問題を起こす毒性の強い細菌毒素であるため、ここでは悪玉LPS命名します。

悪玉LPSに対して、バクテロイデスが作るLPSは、悪玉LPSの有害作用を和らげる作用があり、善玉LPSと呼ぶことにします。

腸内細菌バランスの崩れた状態では大腸菌の増加に伴い、悪玉LPSも増えます。

悪玉LPSが腸管に多くあると腸管細胞のバリア機能が弱まります。

ウェルシュ菌もLPSとは異なる毒素で、腸管バリアの破壊に作用します。

バリア破壊により悪玉LPSが体内移行することで、白血球が活性化され、図1のサイトカインの上昇につながります。

以上のことから、体調不良を避けるためには、悪玉LPSを減らし、善玉LPSを増やすことが大切です。

腸内細菌を善玉菌優勢にすることが大事なんだね!